2005年の構造計算書偽造問題では、「構造計算」という言葉がニュースでよく使われていました。構造計算とは、荷物や雪の重さ、地震や台風などの力に対して、建物が安全かどうかを確認するために行われるものです。
鉄筋コンクリートや鉄骨の建物では、当然のように行われている「構造計算」ですが、実は、着工棟数が圧倒的に多い木造の2階建てや平屋建てでは「構造計算」は行われていません。
それでは、どのようにして木造2階建ては安全性を確認しているのでしょうか。
●木造2階建てで一般的に行われているのは、壁量計算
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| 建築の専門書(建築知識2008年5月号)における、壁量計算の取り扱いの例。 |
木造2階建てでは、
構造計算よりもはるかに簡単な、
壁量計算(かべりょうけいさん、へきりょうけいさん)という方法が使われています。
これは、建物の床面積と外壁の面積から、地震や風の力に耐えるために必要な壁の量を求め、実際に設計する建物がその壁の量を満たしているかどうか、判断するものです。
計算そのものは本当に簡単で、私は小学生でも解ける程度の難易度だと思います。
建築の専門書の特集において、「5分でスラスラ」できるとされているほど、壁量計算は簡単です。
計算の量としては、A3用紙1~2枚程度のものです。
●構造計算とは、許容応力度計算のこと
一般的な構造計算は、専門的には「許容応力度等計算」と言います。
壁量計算は簡易的な計算ですので、建築の専門家は、壁量計算を構造計算とは呼びません。構造計算と呼べるのは、「許容応力度等計算」や、それ以上の細かな計算方法になります。
許容応力度計算は、壁量計算に比べて計算量が圧倒的に多くなり、内容も難しくなります。
木造2階建ての規模でも、A4用紙100枚以上になることは珍しくありません。
計算量が多くなることから、建物の状態をより詳細に知ることが出来ます。
例えば、壁量計算では、それぞれの柱が負担している重さは分かりませんが、構造計算(許容応力度計算)では正確に分かります。
また、構造計算(許容応力度計算)では、床のたわみの量や、地震のときにどの程度柱が傾くかなども正確に求めることが出来ます。
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2階建て木造住宅の構造計算書の例。その枚数は多く、内容も詳細。
一見、数字の羅列で、専門性が高いものです。 |
●壁量計算と構造計算を、ぶどうの品質チェックに例えると
壁量計算と構造計算を、果物のぶどうの品質チェックに例えると、壁量計算は、皿に載せたブドウを少し離れたところから目視でチェックする程度でしょう。ぶどうの実の奥に問題があったとしても、慣れていない人には分かりませんし、それぞれの実の品質も細かくは分かりません。
これに対して構造計算(許容応力度計算)では、ぶどうの実を1つ1つ手にとって、それぞれに問題が無いか確認していく程度の、詳細なチェックになります。
チェックに時間はかかりますが、全てを詳しく調べることが出来ますので、あいまいな部分が無くなります。
実際、構造計算(許容応力度計算)では、柱や梁、土台や金物の1つ1つまで、全て安全を確認していきます。
これに対して壁量計算は壁だけの計算です。
柱や梁は計算にさえ含まれませんので、壁量計算ではそれらの安全性の検討はできません。
●最近、2階建てでも、自主的に構造計算をする会社が増えています。
ここ最近、日々のインスペクションの現場で、変化が起きています。
法律では義務付けられていない木造2階建てにおいても、自主的に構造計算を行っている会社が増えているのです。
以前は、金物工法を使っている一部の会社のみ、構造計算を標準としていました。
しかし最近では、そうでない会社でも構造計算を標準としている所が増えてきました。
この傾向は、構造計算書偽造問題が起きた後に顕著になりました。
建物の安全性をより詳細に知るという点で、これは大変喜ばしいことだと思います。
増えたといっても、木造2階建てで構造計算が行われているのは、全着工棟数の1%にも満たない程度ではないかと思います。
●構造計算の費用は20万円前後が一般的。
より安心のため、2階建てでも構造計算を
木造であっても、構造計算のためには専門的な知識が必要です。
建築士の資格を持っているからといって、全ての建築士が構造計算できる訳ではありません。むしろ、構造計算できない建築士の方が多いと思います。
一般的に構造計算は、構造設計事務所で行います。
木造2階建ての場合、費用は20万円前後が多いのではないでしょうか。
費用と時間はかかるものの、貴方の手元に届けられる構造計算書は、一般的な壁量計算の書類と比べて、はるかに枚数が多く、詳細なものです。
将来のメンテナンスやリフォームにも、きっと役に立つでしょう。そして、建物の安心感も、ずっと高いものとなるでしょう。
●どんなとき、木造2階建てでも構造計算を行った方がいいの?
木造2階建てでも構造計算(許容応力度計算)を行うのが良いか判断に迷うことがあると思います。
この判断のためにはまず、壁量計算が有効となるための以下の前提条件を知っておく必要があります。
1. 平面の形に極端な凹凸がないこと
2. 耐力壁がつりあい良く配置されていること
3. 2階の床や小屋梁の面が水平面として十分に強いこと
4. 大きな吹き抜けや階段が設けられていないこと
5. 屋根の勾配が極端に急ではないこと
杉山英男著 地震と木造建築 p260より一部抜粋・編集
壁量計算は、この前提条件から成り立っています。(この前提条件を知らない建築士も多数居ます)
その前提条件から外れる場合には、構造計算(許容応力度計算)を行うのが良いでしょう。
特に、建物形状が複雑な場合や大きな吹き抜けがある場合、壁量計算を満たすだけでは安全性が確保できないことが多く、要注意です。
この他には、1階が鉄筋コンクリート造、2階以上が木造などの「混構造」においても、構造計算するのが理想です。
●私の理想は、木造においても、全棟構造計算
私としては、建物の形や吹き抜けの大小に限らず、全ての木造住宅において、構造計算を行って欲しいと思っています。
さくら事務所の設計コンペで、構造計算を義務付けているのは、この思いからです。
同じ敷地、同じ間取り、同じ階数で建物を建てる場合でも、鉄筋コンクリート造や鉄骨造で建てる場合には詳細な構造計算を行います。
しかし、木造で建てる場合だけ簡易的な計算で済んでいることは、間違った状態であると思うためです。
建物のより高い安全性を求める声や、平面図や見積りと連動した構造計算ソフトが出てきたことから、将来的に構造計算が行われる割合は、増えることはあっても減ることは無いでしょう。
今後、進んでいる業者さんが構造計算を標準としていくのは、間違いありません。